ゴミのために働く大人たち
減らす方法を考えるべき? そんなことを考えたことはなかった。いまの社会の仕組みなんて、どうやっても変わらないのだと思っていた。でも、ニケはまるで部屋を模様替えするように社会を変えるべきだと語る。そんなに簡単にいくものだろうか?
「でもさ。仮に政治活動はなくて構わないとしても、経済活動はどうするの? 経済活動がなくなったらさすがにみんな困るんじゃないの?」
広告が消えても困らないとしても、農家やドライバー、看護師がいなくなればどう考えても大惨事だ。コロナ禍でも、僕たちが休む中、世の中のために労働してくれた人たちがいた。その人たちを見ても「労働は悪」だなんて言うつもりなんだろうか?
「それはその通りや。ただし、経済活動もぜんぶが必要とは限らん」
「どういうこと?」
「たとえば節分の時期になったら、恵方巻きが大量に捨てられるっていうニュースを見るやろ?」
「そうだね。毎年の風物詩みたいになってるね」
「恵方巻きのためにお米を育てて、炊いて、巻いて、包装して、梱包して、トラックで運ぶ作業は紛れもなく経済活動や。でも、捨てられる恵方巻きをつくる労働は果たして必要なんやろか?」
たしかにそうだ。でも・・・
「それは結果論じゃない? 実際どれだけ売れるかなんて、事前にわからないんだから」
「高校生になったらコンビニバイトを一回やったらええわ。『こんなに売れるわけない』って高校生でもわかるはずやで」
「だったら、どうして売れ残るまでつくるの?」
「社長ですら、お金をもらえなくなる恐怖を感じてるって話を覚えてるか?」
「うん。お金がないと生きていけないから、お金のために強制されるって話だよね」
「そう。コンビニに限らず、あらゆるビジネスではたくさんお金を稼ぐことが求められる。それはいろんな理由があるけど、そのうちの理由の一つは、お金がないと不安だから」
「不安?」
意外だ。お金持ちも、お金がなくて不安な気持ちを味わうのだろうか?
「金持ちだって『一寸先は闇』と感じてるはずや。知り合いの社長に聞いてみ?」
「社長の知り合いなんかいないんだけど?」
「ほんでな、お金を稼ぐにはたくさんつくって、たくさん売る必要がある」
ニケはたまにこちらの話を無視して、自分の話を進める。よっぽど話すのが好きなのか。僕もそれだけ自己主張ができたら、楽しく生きられるのかもしれない。
「そうだね」
「だから売れるかわからなくてもたくさんつくる。そして宣伝して、営業して売ろうとする」
「でも、売れ残るなら、逆にお金がもったいないんじゃないの?」
「それはそうやけどな、少年がさっき言った通り、やってみなわからんねん。逆に少なくつくって品切れになったら『もっとつくれば、もっと金儲けできたのに』って感じるやろ? だから結局たくさんつくるんや」
「そういうものなの?」
「実際に、食品の廃棄率はかなり高い。他にも、アパレル業界もたくさん服をつくっては売れ残して捨ててる。一回検索してみるとええわ。経済活動は過剰生産なんや。ちょっとやそっと減っても構わへんねん」