第三章 労働は本当に必要か?
ニケがわざとらしく見つめた遠くの空には、快晴を覆い尽くそうと雲が待ち構えている。そういえば、今日は午後から雨が降るんだっけ?
今朝、天気予報を見ていたとき、僕はいつもと同じ一日が始まることを疑いもしなかった。それがいまや、公園の芝生に座り込んで、五十歳のニートと話し込んでいる。人生とは、空模様よりも気まぐれなものらしい。
「雨、降りそうやなぁ」
議論しているときの大袈裟な声とはうってかわって、ニケは小さな声でつぶやいた。
「そうだね」
「傘、持ってるんか?」
「持ってないよ」
「一緒やな」
きっとこの芝生で話していられる時間は多くない。それでも不思議と僕たちはこの場から離れようとはしなかった。まだまだ舞台は中盤。そんな感覚が僕らを結びつけている。次のセリフを紡ぐため、僕は議論の沼に思考を沈めていった。