最後に

 『労働廃絶論』は一九八〇年に行われた演説から何度かの改訂を経て完成したテキストである。若干現代にそぐわない記述もあるものの、それでも現代に至るまで解決されてこなかった問題の本質を鋭く指摘していることには疑いの余地はない。むしろ問題が解決されず悪化している以上、『労働廃絶論』が持つ価値は、ますます高まっているとすら言える。

 一方で、『労働廃絶論』は世に広く浸透した文章とは言い難い。アナキストをはじめとした左翼の界隈ではカルト的人気を誇っているものの、社会変革につなげていくためにはもっと多くの人に読まれるべきである。だからこそ、私は新たに翻訳したうえで解説を加えて出版することを決めたのである。

 翻訳にあたっては、アナキズム叢書から出版された『労働廃絶論』(高橋幸彦氏による翻訳)を参照させていただいた。また、有志による「まとも書房翻訳チーム」の方々には大いに協力いただいた。もはや私の手による翻訳部分よりも、彼らの手によるところの方が多い(が、本人たちの希望により、お名前をクレジットすることは控えさせていただく)。改めて先人たちや協力者の方々には感謝を伝えしたい。

 ちなみに今回の翻訳文の著作権は、原文の著作権を放棄したボブ・ブラックにならい放棄する。コピーしたり、アレンジしたり、新たに出版し直したり、好きなように遊んで欲しい。労働が廃絶された世界では、著作権など不要の長物なのだから。