我慢をやめて環境問題解決
「ちなみにな、ベーシックインカムを導入すれば環境問題も解決すると、アンチワーク哲学では考えられてる」
「どういうこと? あんまり関係ないんじゃないの?」
「少年は環境問題はどうすれば解決すると思う?」
「どうすればって・・・」
学校で習ったことを思い出す。社会科の授業で、環境問題について習ったような・・・
「電気自動車を買ったり、ペットボトルを分別したり、食べ物を捨てないようにしたり、クーラー二八度に設定したり?」
「まぁ、そんな風に教わるやろうな」
「違うの?」
ニケは大袈裟に首を振る。
「まったく無意味やとは言わん。でも、ベーシックインカムの方が手っ取り早いやろな」
「どうして?」
「金儲けのための政治活動や、余計な経済活動、それらをサポートする膨大な労働がなくなるやろ? その活動のためのCO2は排出されなくなるんや。どれだけの量になるやろなぁ」
言われてみればそうだ。労働にはたくさんの電気や資源が必要で、きっとたくさんCO2が排出されている。それが無駄な労働のためだとすれば・・・
「そっか。無駄な仕事のためにビルを建てたり、パソコンを動かしたり、トラックでものを運んだりしているんだよね」
「そう。それにな、誰も好き好んでアマゾンの原生林を切り拓こうなんて思わんねん。みんな金儲けのためにやってるわけや」
「どういうこと?」
「たとえば森を切り拓いて、資源を掘り起こして、百万円を儲けようとする悪いビジネスマンがおるとしよ」
「うん」
「そいつに『森を切り拓くのをやめてくれたら、代わりに百万円をやる』って交渉を持ちかけたらどうなると思う?」
「そりゃあ、交渉は成功するでしょ? 同じ金額をもらえるなら、わざわざ苦労して森を切り拓く必要はないもんね」
「そう。ベーシックインカムが完全に儲けと同じ金額になることはないけど、それでも森を切り拓く人は減るやろな」
「つまり、金儲けのエネルギーを弱めるベーシックインカムがあれば、環境破壊のエネルギーも弱まるってこと?」
「そういうことや。正直に言ってほしいねんけどな・・・」
ニケは少し間を置いてから言った。
「少年は環境問題に興味あったか?」
正直に言えば、「どうでもいい」と思っていた。大人たちから「未来のために環境を大切にしよう」と言われても、どうしても自分のこととは思えなかった。それに僕一人が我慢してなにかが解決するとは思えない。
「正直、分別するのはめんどくさいし、クーラーが弱いのは嫌だし、『我慢しないといけないくらいなら環境なんか壊れちゃえ』って思ってるよ」
「それがみんなの本音やろな。でもな、労働をやめたら環境が守られるんやったらどう思う?」
「そりゃあ、退屈な労働をしなくてよくなった上に、環境まで守られるならいいこと尽くしだね」
「そう。環境を救うために必要なのは我慢やない。逆に我慢せず、欲望のままに生きることで、環境は救われるんや」