第五章 人間が欲望するもの

 雨は加速し、風が吹き抜ける。まるで嵐だ。でも、あまり気にならない。僕たちの議論も同じ速度で進んでいるようだ。

 嫌なことをやめて、好きなことをやる。欲望のままに生きる。それはダメなことだと思い込んでいたけど、ニケは逆に欲望のまま生きるべきだと言う。本当にそうなのだろうか。一を理解すれば十の疑問が浮かんでくる。

 もし、ニケが言うように、人間が欲望に従って勝手に貢献する生き物だったのなら、どうしてこの世界にはお金があって、支配があって、労働があるのだろうか? 自由になった人間は本当に、水道や電気、家、スーパーマケット、美味しいレストラン、温かいベッド、漫画、ゲーム機を自発的に提供してくれるのだろうか? それは趣味のように素人レベルの仕事にとどまり、途中で投げ出されるのではないだろうか?

 穴の空いたボートから水をかき出すように、僕は次から次へと疑問をニケに投げ捨てなければならない。そうしなければ、思考の海に溺れてしまいそうだ。一つ一つ、議論をしていこう。