お金というイノベーション
「ほんでな、時代が進んで暴力以上に効率的な支配のツールが登場した。それがお金や」
「どういうこと?」
「たとえば俺が拳銃を持っていたとして、少年に毎日オムライスをつくらせたいとしよう」
毎日オムライスって・・・。まるで下手くそなプロポーズの言葉みたいだ。
「ちょっと気持ち悪いね」
「でもな、二四時間拳銃を突きつけ続けるのはむずかしいやろ?」
「そうだね。寝ている間にこっそり逃げ出すかもしれないし」
「そう。だから支配する側は、暴力に代わる支配のツールが欲しくなった」
「それが・・・お金?」
「そういうことや。お金で人に命令するのは、常に拳銃を突きつけるよりは遥かに楽や。遠くで暴力をチラつかせとけばええねん」
遠くで暴力をチラつかせる? まるでギャングかヤクザのような言い分だけど・・・
「どういう意味?」
「ところで少年。お金がお金として機能するのはなんでやと思う?」
「それは・・・『お金には価値がある』ってみんなが信じているから」
そんな話を社会の授業で習った気がする。あとはなんだっけ? お金の機能についても習った気はするけど・・・
「まぁそれもある。でもな、究極的にはお金の価値は暴力によって支えられているんや」
「どういうこと?」
「お金を払わずにお店から物を持って帰ったらどうなる?」
「えっと・・・警察につかまる?」
「せや。つかまるっていうのは具体的にはどういうことや?」
「えっと、警察の人がやってきて、パトカーに乗せられて・・・」
「そう。で、逃げようとしたらムキムキの警察に押さえつけられるし、それでも逃げようとしたら警棒か拳銃で暴力を振るわれるわな」
「そうだね」
「じゃあ、警察という暴力装置がおらんかったらどうなる?」
暴力装置・・・なんだか物騒な表現だけれど、警察が暴力の装置であることは事実だ。
「万引きしても捕まらない?」
「そう。暴力が根本にないとお金で命令することはむずかしい。だからお金は暴力に支えられてるってことや」
「でもさ・・・みんながお金を信じて約束するってだけじゃダメなのかな? 暴力がなくても、お金を信じることはできるよね? そうやってお金が生まれてきた可能性もあるよね?」
「お金の成立過程にはいろんな説があるから一回調べてみたらええわ。いずれにせよ、現代において金の支払いを拒んだり、借金から逃れようとしたり、税金を拒否したりすれば、暴力を振るわれることは事実。その結果、お金が命令の装置として機能していることも事実や」
「それは・・・そうだね」
お金は暴力に支えられている。あまり信じたくはないけれど・・・
「でも、常に拳銃を突きつけ続けるよりは楽やろ? 暴力という手間を削減した意味で、支配のツールとしてのお金は史上最大のイノベーションやった、でもな・・・」
「でも?」