第六章 労働とお金

 雨の音と風の音は、僕たちの会話の隙間を埋めようとしては、タイミングを見失っている。僕たちの会話に生じたわずかな隙間は、すでに疑問と思考に埋め尽くされていて、ほかのなにかが混ざる余地は残っていない。ミュートボタンを押したような世界で、僕たちの議論は進んでいく。

 労働は悪。命令や強制は悪。そんなものがなくてもなんとかなる。ニケはそう言う。だとすれば、僕が次に問わなければならないことは明らかだ。なぜ、僕たちの社会はこんなにも労働で埋め尽くされているのか?